老年科・老年病科

老年科とは

当院は、東京大学医学部附属病院老年病科の関連病院であり、多くの老年科医(日本老年医学会老年科専門医)が所属しています。 老年科とは高齢者の総合診療を得意としており、高齢者におこるすべての病気について、そのプライマリ・ケアを行います。高齢期になると、どうしても複数の慢性疾患を抱える方が多いのですが、それぞれの専門の診療科の外来に通院すると、外来に通院すること自体が負担になるばかりか、ポリファーマシーといって多くの薬剤を処方される結果、お薬の有害作用も増えてしまいます。お薬には絶対に必要なお薬から、相対的には不要なお薬までありますので、患者さんの社会環境も含めた全体をみて治療の優先順位をつけ、メリハリのある薬物療法を行うことができます。高齢者は、普段は老年科外来で投薬を受けつつ、どうしても必要な場合には専門診療科で検査や治療を受けるという医療体制を構築しておくことがよいと考えられます。
そもそも老年科の得意分野の病気というのもあります。認知症や骨粗鬆症です。これらの病気は高齢者に多く、老年科医が専門的なところまで診断や治療ができる病気です。いわゆる生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)については、若年者と高齢者では治療目標が異なりますので、高齢者の治療目標を提案できます。また、在宅医療(訪問診療)や緩和ケア・終末期医療も得意としています。
近年、要介護の前段階はフレイルと定義され、フレイルの段階からの要介護状態の予防を行います。要介護状態の場合には、訪問看護師やリハ職などのさまざまな在宅医療従事者、ケアマネージャーなどの介護関係者と連携します。施設に入所された場合には、施設に訪問診療を行います。このように、高齢者の主治医・かかりつけ医として、さまざまな診療科の医師や職種の方と連携し、高齢者の予防医療から終末期医療まで幅広く対応するのが老年科医です。
東京大学医学部附属病院の関連病院ではありますが、他の病院へも紹介できますので、現在東京大学医学部附属病院に通院中の方以外でも、お気軽にご相談ください。

認知症・物忘れ外来

認知症は特に加齢とともに増える病気です。90歳を超えると約50%に及ぶ方が認知症であることがわかっています。男性の41%、女性の65%が、生まれてから亡くなるまでに認知症を発症することもわかっています。
認知症の診断と治療は老年科の得意分野です。物忘れ自体は加齢とともに増えてきますが、それが加齢に伴う物忘れなのか、認知症に伴うもの忘れなのかを判定する必要があります。近年、認知症の前段階である軽度認知障害の段階から、その原因によっては治療薬を投与することにより、認知症への進行を遅らせる薬物療法が登場しました。適応は、アルツハイマー病に伴う軽度認知障害・軽症認知症であるため(レケンビ、ケサンラ)、すべての軽度認知障害の方が対象ではありませんが、少なくとも軽度認知障害の方を放置するのではなく、精密検査も併用しながらしっかり診断をすることが必要です。また、認知症ではさまざまな症状が出現しますが、物忘れ(記憶障害)などの認知機能障害と、妄想、興奮、暴力、不安、抑うつなどの行動心理症候では治療法が異なります。どの症状が認知機能障害で、どの症状が行動心理症候かを見分けるのは難しく、老年科外来の診察をお勧めします。
認知症の方は、入院することによりせん妄(認知障害)、運動障害、嚥下障害を発症しやすくこれらは入院関連合併症と言われます。入院関連合併症を発症するとその後の経過が悪くなることが知られています。一方で、認知症が進行してくると、誤嚥性肺炎や心不全など入院の契機となる病気の発症も増えてきます。できるだけ生活の場で治療することにより入院を回避することが、入院関連合併症の予防になります。また、がん治療や人工栄養など治療の選択について、認知症の重症度の判定は重要です。認知症の発症前から終末期まで伴走し、認知症の方におこるさまざまな問題について、患者さんとその家族の意思決定を支えることも老年科医の役割です。

骨粗鬆症について

骨粗鬆症は、加齢とともに増える疾患で、特に女性の場合には80歳を超えると50%以上の方が罹患することが知られています。骨粗鬆症があると、脊椎圧迫骨折や大腿骨頚部骨折などの脆弱骨折が起きやすくなり、骨折がきっかけで寝たきりになってしまう高齢者も多くいらっしゃいます。大切なことは、骨粗鬆症の治療薬を投与することで、これらの骨折の発症頻度を減らすことができるということです。特に一度骨折した方は、再度骨折する可能性が極めて高いことが知られており、必ず骨粗鬆症治療薬の投与を受けた方が良いでしょう(二次性骨折予防)。
加齢とともに、身長が短くなった、前かがみ・猫背(円背)になったという方の中には、「いつのまにか骨折」ともいうべき、脊椎圧迫骨折を認める方がいらっしゃいます。まずは脊椎レントゲンで変形の原因を確認した方が良いでしょう。骨粗鬆症が発症しているかどうかがわかります。
骨粗鬆症は整形外科医も専門的に診療していますが、老年科医も専門的に診療していますので、他の内科疾患と合わせてぜひご相談ください。

高齢者の心の病・老年精神科外来

抑うつ、不安(パニック発作を含む)、幻覚、妄想、不眠、意欲低下、焦燥、易怒など、さまざまな精神症状が出てくる方がいます。精神症状は高齢者の生活の質:QOLに著しい影響を与える一方で、薬物療法により改善するものも多くあります。なかには認知症の初期症状となっている場合もあり、認知機能検査や脳画像検査を行いながら経過をみていく必要があります。ご家族も対応に苦慮する場合もあり、ご家族への対応の仕方の指導も欠かせないものとなります。必要があれば自立支援医療、精神保健福祉手帳、成年後見制度に関する診断書の作成も行っています。
高齢者の心の病は、老年精神科の専門分野です。精神科やメンタルクリニックというと気後れしてしまう方でも、当院であればさまざまな診療科がある中で並行して精神医療を受けることができますので、お気軽にご相談ください。まずご家族だけでご相談していただくこともできます。

フレイル・要介護状態の予防

体重の減少や低体重、筋力低下、歩行速度の低下、転倒やふらつき、頻尿や尿失禁、便秘といった症候も高齢者に多く、老年科の専門分野です。フレイル予防、要介護状態の予防に関連する項目は、基本チェックリストとしてまとめられていますので、この基本チェックリストの項目で気になるものがあれば、ぜひ老年科を受診してください。訪問看護師、リハ職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、歯科医師、社会福祉士・精神保健福祉士などさまざまな職種と、あるいは文京区、地域包括支援センター、社会福祉協議会、介護事業者、生活支援事業者などさまざまな事業所と連携しながら、フレイル予防だけでなく「幸福な老後=ふくろうの由来」を一緒に考えていきます。

【基本チェックリスト】

  1. バスや電車で、一人で外出していますか
  2. 日用品の買い物をしていますか
  3. 預貯金の出し入れをしていますか
  4. 友人の家を訪ねていますか
  5. 家族や友人の相談にのっていますか
  6. 階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか
  7. 椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか
  8. 15分位続けて歩いていますか
  9. この1年間に転んだことがありますか
  10. 転倒に対する不安は大きいですか
  11. 6ヶ月間で2kgから3kg以上の体重減少がありましたか
  12. 身長(cm)と体重(kg)およびBMI
    BMI=体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m) が18.5未満の場合に該当とする
  13. 半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか
  14. お茶や汁物等でむせることがありますか
  15. 口の渇きが気になりますか
  16. 週に1回以上は外出していますか
  17. 昨年と比べて外出の回数が減っていますか
  18. 周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われますか
  19. 自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか
  20. 今日が何月何日かわからない時がありますか
  21. (ここ2週間)毎日の生活に充実感がない
  22. (ここ2週間)これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった
  23. (ここ2週間)以前は楽にできていたことが今はおっくうに感じられる
  24. (ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない
  25. (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする

適切な意思決定支援に関する指針

医療法人社団創福会ふくろうクリニック目白台

1.基本方針

ふくろうクリニック目白台では、人生の最終段階を迎える患者が自らの意思に基づいて、尊厳を持った最期を迎えられるよう、患者本人やその家族と密に連携し、多職種チームで支援します。厚生労働省のガイドラインや、地域における医療・ケアの実情を踏まえ、患者の意思を尊重し、柔軟かつ適切な支援を行います。

2.人生の最終段階における医療・ケアの方針決定支援

(1)患者本人の意思が確認できる場合
  • 患者本人の意思決定を基本に、家族や主たる介護者も関与し、医療・ケアチームと連携して最適な医療・ケア方針を決定します。決定内容は診療録に記録し、定期的に見直します。
  • 時間の経過や心身の状態に応じて意思が変化することがあるため、患者が自ら意思を伝えられるよう支援し、その場合の対応を事前に家族と相談します。
(2)患者本人の意思が確認できない場合
  • 家族が患者の意思を推定できる場合、その意思を尊重し最適な医療・ケア方針を慎重に決定します。
  • 家族が意思を推定できない場合は、医療・ケアチームと家族が十分に話し合い、最善の方針を決定します。
  • 身寄りがない場合や判断を医療・ケアチームに委ねる場合、最適な方針を医療・ケアチームで慎重に決定します。

3.認知症等で自ら意思決定が困難な患者の支援

認知症等で意思決定が困難な患者については、厚生労働省のガイドラインに基づき、患者の尊厳を守る形で家族、関係者、医療・ケアチームが連携して支援します。患者の意思を最大限反映させることを重視します。

4.身寄りが無い患者の意思決定支援

身寄りがない患者に対しては、信頼できる関係者や地域の福祉・行政サービスを活用し、患者の意思を尊重した方針を決定します。判断が難しい場合は、地域包括支援センターや行政との協力を得て、患者にとって最善の医療・ケア方針を導きます。

5.苦痛の緩和

医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行います。

  • 痛みや不快な症状をできるだけ抑え、穏やかに過ごせるようなケアを提供します。
  • 精神的・社会的な支援も含め、患者さんとご家族をサポートします。
  • 「生命を短くすることを目的とした治療(積極的安楽死)」は、この指針には含まれません。

《参考資料》

**人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスにおけるガイドライン**(厚生労働省 2018年3月改訂)
**身寄りがない人の入院および医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン**(研究代表者 山縣然太朗)
**認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン**(厚生労働省 2018年6月)